さて、年金に対する誤解を具体的に見ていきましょう。
「年金財政は破綻する?」
こういう意見をよく聞きますが、結論としては「積立金は枯渇しないし、そもそも”賦課方式”なのであまり気にする必要はない」です。
GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)はご存知でしょうか?この組織では現役世代が収めた保険料のうち、年金支払いにあてられなかったものを積立てて運用しています。2023年6月末の年金積立金は約219兆円(年金支払いの約5年分)にものぼります。アメリカでおよそ3年分、ヨーロッパのほとんどの国ではほぼ積立金がない状況を考えると恐るべき額です。
一般の人のみならず有識者の一部でも勘違いしがちですが、基本的に年金支払いにこの積立金は使われていません。公的年金支払いは保険料(約4分の3)と税金(約4分の1)でほとんどまかなわれています。つまり、毎年の年金支払いと現役世代の保険料・税金でトントン、ある意味自転車操業的に運営されています。
じゃあ、「積立金って何のためのもの?」って不思議に思いませんか?
年金開始当初は現役世代が多かったことから余剰金が生まれ、それを蓄えていきました。これが現在の積立金の原資となります。ただ、日本の年金は「賦課方式」なので、「積立方式」と違い積立金を使う必要がそもそもありません。
先ほどから「賦課方式」と「積立方式」という言葉が出てきました。簡単に説明しておくと、「賦課方式」は現役世代が年金受給世代を負担するもので、「積立方式」は自分で現役時代に積立てて、受給時に自分の積み立て運用した分を使うというものです。
「賦課方式」の最大の弱点は少子化と言われています。よくある説明では「かつては多くの現役世代で支える”お神輿型”であったが、現在は”騎馬戦型”、そして将来は”肩車型”」というものです。実際、1970年当時、65歳以上の高齢者1人に対して若者は13.1人、2040年には1.8人と想定されています。
ただ、見方を変えて「保険料は働いている人が負担」→「働いている人が働いていない人を養っている割合がどれぐらいか」と考えると、1970年では1.05人、2020年では0.89人、2040年で0.96人でほとんど変わっていないのが分かります。ここには働き方の変化が関係しています。労働人口に占める65歳以上の割合は1970年の4.5%から現在の約13%、専業主婦世帯は逆に半減しているのです。「少子高齢化で年金は潰れる」と騒ぐ前に、色々な観点から数値で客観的に把握するのも大事です。
次に「積立方式」の弱点ですが、年金制度が始まった時点で既に老後、あるいはこれから老後を迎えるであろう40〜50代の年金支払いの原資がないため、いつまで経っても年金支給を始められません。それまでの間、若い人は自分の親の世話と自分の保険料の二重の負担を強いられます。
またいつまで生きるか分からないため、途中で原資が枯渇したり、運用失敗により原資が減る可能性もあります。かと言って、無リスクの国債ではインフレに対応できないという問題もあります。
やはり、現実的には「賦課方式」でしか運用継続は無理なのでしょう。政府の見解によると、100年後に積立金を1年分ぐらい残して少しづつ取り崩し、現役世代の負担を減らす方向とのことです。これを「修正積立方式」と呼ぶらしいですが、これが「積立方式」の延長と勘違いされ、少しでも積立金がマイナスになると、野党やマスコミが騒ぎ立てる要因となります。
少子化の影響も、実は出生率がある程度のところで下げ止まると、一時的には負担増となりえますが、長期的には支払い負担も減少するので、さほど影響しないとの試算もあります。
「賦課方式」である限り、積立金は大きな問題ではないと言えそうです。