この本は投資の基本的な考え方、心理的な部分を焦点に当てたもので、投資初心者だけでなく経験者にとっても一度初心に帰って見つめ直す機会を与えてくれる良書です。2回目の読了ですが、何度読んでもその都度発見があり、示唆に富んだ内容だと思います。
冒頭で、名もない清掃員が800万ドルを遺して亡くなった話から始まりますが、彼はわずかな給料で質素な生活を送りつつ積立て投資を続け、最終的に有り余るお金を手に入れました。逆に、年に数千万ドル稼ぐようなエグゼクティブがあっという間に破産する話も出てきます。資産を築くのに必要なのは、稼ぐことよりもどう振る舞うか(貯蓄、投資も含めて)が重要ということであり、これは「ソフトスキル」であると本書は語っています。
人々の生涯にわたる投資判断は、その人が同じ時代に経験したこと、特に成人して間もない頃の経験に左右されると言います。確かに、バブル時代に若い社員だった今の60前後の方で、未だにバブリーな感覚をお持ちの方を時々見受けられます。幸か不幸かバブルを経験してしまったことが、資産形成に負の影響を及ぼしていそうです。また、育った家庭環境も当然影響します。兄弟間の収入は、”身長や体重よりも相関が高い”というデータもある程です。”あらゆる成功が努力だけによるものでもないし、あらゆる貧困が怠惰によるものでもない”、ということを我々は常に頭の片隅に留めておかなければならないと思います。
氷河期を起こすには、地球の地軸が傾くことで夏がわずかに涼しくなり、前年の冬の雪を溶かすほど気温が上がらなくなることから始まります。それが毎年続くことで少しずつ残雪が積もり上がり、さらに雪が太陽光を反射することで熱を放散しさらに寒くなる。この繰り返しで氷河期が形成されます。ここから学べる教訓は、”途方もない結果を生み出すのに、途方もない力は必要ない”ということです。これは冒頭の清掃員の話にも繋がりますね。
とにかく淡々と行動するに尽きる、という意味でもう一つの例として①上げ相場だろうが下げ相場だろうが毎月1ドル投資するAさん、②毎月1ドルを投資、景気が後退したら株式を売却し貯金、景気後退が終わったら貯金を全て投資するBさん、③毎月1ドルを投資するが、景気後退になったら6ヶ月後に売却し、景気後退が終わって6ヶ月後に投資を再開するC。この3人の投資家が1900年から2019年までの間に資産をどれぐらい築けるかを計算すると、Aは43万5551ドル、Bは25万7386ドル、Cは23万4476ドルとなったそうです。下手に動かすよりも何も考えずに買い続ける方が良さそうですね。これに繋がることとして、男性と女性の株式運用成績を比べると、女性の方が良いというのを聞いたことがあります。男性は独自の理論であれこれ売買するのに比べ、女性はあまりいじらずそのままにしていた結果だったそうです。
また、「テールイベント」の絶大な力についても述べています。例えば美術品商の集めた作品の99%は価値のないものかもしれないが、残り1%にピカソのような絶大な価値のあるものが含まれていたら、全ての失敗を帳消しにできる。ディズニーの成功にしても、1938年の「白雪姫と7人の小人たち」がこれまで赤字だった400本以上の作品の収益をはるかに上回った。これは今のベンチャーキャピタルに繋がる考えで、全体の1%以下の行動が、投資の成否を決めると言えます。ピーター・リンチは「この業界で際立って優秀な人でも、正しい判断をするのは10回のうち6回程度だ」言ってますし、ジェフ・ベゾスやウォーレン・バフェットでさえも失敗を重ねています。半分は間違っていても稼げるし、私も含め9割9分の人はそこまでの能力も胆力もないとすれば、淡々と買い続けるドルコスト平均法は理にかなっているのではないでしょうか。