幸福とお金の関係について、巷でもよく語られますし、本屋でもそのたぐいのものをよく目にします。かく言う私もよく読んだりしますが、今回佐藤一磨著「残酷すぎる[幸せとお金の]経済学」という本がとても面白かったです。
・人生の中で幸せのどん底は50歳前後
・男性と女性では相対的に女性の方が幸福度が高い
・お金持ちほど幸せになれる
・管理職に昇進しても幸福度は上昇しない
世界145カ国において、幸福度のどん底の平均年齢は48.3歳。日本でも49から50歳ぐらいが最低になります。考えられる原因として、若年期に思い描いた「大人の自分の姿」と現実とのギャップだったり、親の介護と子育ての二重負担、中間管理職としての責任とストレス等が考えられています。私自身も40半ばを過ぎて中間管理職でもあり、子はまだ小学生です。あと数年もしたらどん底がくる気配はまだないですが、どうなるんでしょうか・・・。
年収と幸福度との関係はノーベル経済学賞受賞者のダニエル・カーネマンの研究が有名です(2010年)。彼によると、年収6万から9万ドルになるまでは幸福度が上がり続けるが、それ以上は頭打ちになる、結論として幸せになるには7万5千ドル(現在のレートで1000万円を少し超えるぐらい)稼げば良いと結論付けました。しかし、最新の研究(2023年)でこの説が覆されました。今回の研究では「幸福度の低いグループ」では年収と幸福度がある程度で頭打ちになるのに対し、「幸福度の高いグループ」では、年収の増加とともに幸福度が上昇傾向、10万ドル以上(約1,500万円)になると幸福度がさらに上昇するという興味深い結果となりました。
国レベルで見ると、経済成長と幸福度は関連がない(イースターリンのパラドックス)という報告もあります。自分だけでなく、みんなが一緒に豊かなると幸せを実感できないということです(相対所得仮説)。人間とはなんとも因果な動物ですよね。また、韓国の研究では、経済成長によって子供の幸福度は低下するという結果が出ています。経済成長によるプラスの影響(衣食住、健康、治安等)よりもマイナスの影響(幼少期からの勉強に割く時間)の方が大きいといえそうです。
私は以前サモアという小さな島国で1年少々暮らしていましたが、彼らは私達日本人よりもはるかに幸せそうでした。彼らは個人で物を所有する感覚はあまりなく、常にシェア文化で成り立っていましたので、他人と比較することもなく不公平感が湧かないのだと思います。干していたシャツを勝手に着られたり、置いていたご飯を一部食べられたり(笑)と、日本ではあり得ない行動も向こうでは当たり前で合理的な行動と言えるのです。経済的にはるかに優っているはずの日本人が幸せに感じないのは、皮肉なものです。果たして、私たちは何のために豊かになろうとしているのか考えさせられます。
昇進が幸福にどう影響するか問題ですが、ロンドンの公務員対象の研究によると「低い職階で働く人ほど心疾患のリスクが高く、死亡率の上昇やメンタルヘルスの悪化に繋がり、逆に高い職階の人ほど健康度も高い」という結果が出ました。ただ、イギリス全土の民間会社を含めた研究では真逆の結果となりました。1つは、「もともと健康状態が良い人ほど管理職に昇進した」2つ目は「管理職に昇進した3年後にメンタルヘルスが悪化した」とのこと。管理職の人がもともと意識高い系で健康に気を遣うのは分かる気がしますが、やっぱりメンタルがやられるんでしょうか・・・。
日本で言えば、非管理職の約6割は管理職なりたくないといいます。私もそうでした。年収が多少増えても、趣味に費やしたり、友達や家族との時間を過ごし、自由に生きたいということなのだと思います。実際、日本の研究では、「管理職に昇進しても幸福度は上昇しないし、健康状態は悪化する」という研究結果も出ています。私自身、幸福度は分からないですが待遇ははるかに良くなったので、その辺はやはり満足はしています。やりたい事ができている管理職がベストなのかもしれません。
面白いのは「妻が管理職だと夫の幸福度は低い」という結果も出ていることです。世帯年収は増加するけど、夫は家事労働時間が増え、さらに「男が一家の大黒柱」という価値観と実態とのギャップに苦しむとのこと。性別で役割を分けるのではなく、得手不得手を考慮して稼げる方が稼いだらいいだけの気もしますけど、男の根拠なきプライドが邪魔するんでしょうか。単純にはいかなさそうです。