昨今、資産運用の特集が雑誌やテレビ、youtube等で頻繁にみられますが、退職後の取り崩しに関して、皆さんはどこまで考えているでしょうか。基本的に65歳から年金の受け取りができますが、自分がいくらぐらいの年金をもらえるのかの概算を知らないと、毎月いくら足りなくなりそうなのか、それによっては資産をどれだけ貯めておかないといけないかも分かりません。今回、『60代からの資産「使い切り」法(野尻哲史著)』という本を読みましたが、実践向きの本でお勧めです。
さて、退職後の生活費を何で賄うかですが、次の式が成り立ちます。
退職後の生活費=①勤労収入+②年金収入+③資産収入
年金だけで生活費を賄うのは不可能なので、基本的に勤労収入を増やすor資産収入を取り崩すのいづれかになります。
①勤労収入に関しては、少なくてもいいので、できるだけ長く、楽しく働けることがポイントとなります。また収入だけではなく、社会と関わることにより健康寿命も長く保てるメリットも見込まれます。
③資産収入においては、少しでも長く、多く確保できるような取り崩しを考える必要がありそうです。あとは生活費自体を引き下げるのも1つでしょう。
「退職」とはいつのこと?
そもそも「退職」とはいつの時点でしょうか。お金の面から考えると、勤労収入<生活費(すなわち勤労収入だけでは生活費を賄えなくなった時点)という考えが分かりやすいと思います。そして、「退職」したら積立投資は卒業し資産運用は継続するのが基本となります。
例えば、65歳まで働いてその後は年金収入と貯蓄だけで生活費を賄うとすると、次の2つの選択肢があります。
❶65歳から年金を受け取り、足りない分を貯蓄で賄う
❷年金受け取りを先延ばしにし、それまでは貯蓄だけで賄う
著者の試算では、年間生活費400万円、年金額250万円、100歳まで生きる、という条件で❶なら5,250万円、❷なら3,350万円(70歳から年金受け取り、42%増)用意する必要があり、差額が1,900万円となっています。ただ、私としては条件として老後にしては生活費が掛かり過ぎるのと、年金額ももう少し少ない人の方が多い気がしているので、生活費300万円、年金額200万円、95歳まで生きる、という条件で試算してみると、❶で3,000万円、❷で1,900万円(70歳から年金受け取り)という試算になりました。いづれにしても❷の年金受け取りの先延ばしが有利な状態には変わりないようです。ただし、増えた分の年金にはそれだけ課税も増えますので、単純に年金先延ばし案が良いとは言い切れないところです。
資産をどう引き出す?
資産の引き出し方ですが、毎月定額でいくのか定率でいくのかどちらが良いでしょう。結論から言うと、定率で引き出すのがベストということになります。例えば、⑴65歳時点でまとめて3,000万円を運用し、毎年120万円の引き出しで15年間平均3%で運用
⑵65歳時点でまとめて3,000万円を運用し、毎年残高の4%の引き出しで15年間平均3%で運用
実は同じ平均3%の運用でも、前半が好成績で後半が今ひとつのパターンとその逆では大きく変わり、前半が好成績の方が断然有利となります。⑴の例で言うと、15年間の引出額は一緒ですが、通帳残高は1千万超えるぐらいの差が発生しうるのです。そこで、通帳残高を毀損しないためには定率で引き出す必要があります。⑵の例で言えば、15年後の通帳残高は前半と後半がどちらが好成績だったとしても同じ2,390万円の残額となりました。引出額で言えば、前半好成績の方が800万円近く多いですが、こればかりは市場によるので、我々にはどうしようもありません。
よく「4%ルール」を聞くと思いますが、株式50債券50のポートフィリオの場合、インフレ調整後の引出率4%であれば、1926年以降のどの35年間(米国市場)をとっても資産は持続するというデータは覚えておいてほしいところです。
退職後は2つのステージに分けて考える
退職後は前半と後半に分けて考えるのも一案です。すなわち、前半の元気で活力がある「健康寿命」の期間と後半の「何らかの介護が見込まれる期間」に分け、これを基準に、人によっては前半楽しめるだけ楽しむために資産を厚くするか、後半に資産をなるべく取っておくか、を決めるという考え方です。せっかくの人生なので、ただただお金を貯めても意味がありません。何歳まで生きるか誰にも分かりませんが、平均余命を基準に自分らしく生きるために、資産を割り振っていきましょう。